[2013年4月改組]
2013年4月をもって新たな組織に発展し、研究を展開しています。 > 環境資源科学研究センター
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女性研究者の素顔

研究も家庭生活も 合理的に、生産的に、ハッピーに
プロフィール

白須 賢(しらす けん) 植物免疫研究グループ グループディレクター

1988年東京大学農学部農芸化学科卒業。1993年カリフォルニア大学デービス校にてPh.D(遺伝学)取得。1993年より米国ソーク・ノーブル研究所にて博士研究員、1996年より英国セインズベリー研究所にて研究員、2000年同グループリーダー。一貫して植物免疫の研究に従事。2005年より現職。2008年より東京大学大学院理学系研究科・教授(兼任教員)。

植物免疫研究グループでは、子育て中の研究者がたくさん活躍されている印象があります。

私を除くと9人の研究員がいますが、そのうち4人が女性で、うち2人は2人ずつ子どもがいます。男性5人のほうは3人が子持ちです。送別会などの宴会には必ず誰かの子どもが来ていますね。大人の宴会につきあわされる子どもはすこしかわいそうな気もするけど、研究室として子どもの参加を拒むつもりはありません。新年会は家族ぐるみで、自宅で開きました。
女性研究者が多い理由はわからないけど、次の行き先を探している研究者が話を聞きに来たときに、育児の話で盛り上がったことはあります。それで家庭と両立させやすそうだという印象を与えるのかもしれませんね。女性研究者の特徴というのは特に感じたことはありません。ただ、もし男性研究者しか採用しない研究室があるとしたら、優秀な女性研究者を逃しているとは思います。

出産する女性研究者にはどのような配慮をされていますか。 

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研究者は定期的に論文を発表することが大切ですから、産休・育休に入る女性研究者には、業績リスト上はいつ休んでいたかわからないように、仕事を途切れさせないようにと話します。具体的には、育てるのに時間のかかる植物を植えておく、レビューを書いて頭を整理するなど、研究室に来なくてもできる仕事をするようにということです。
子どもにとって、生まれてからずっと傍にいた母親がいきなりフルタイムで働きに出るのは、相当きついことだと思います。フルタイムでないとまず保育園に入れませんから、自分に甘えないで、家にいても仕事ができる心の強さがあれば、勤務形態にこだわる必要はないと思います。研究者である私の妻が出産したときは、週1日から段階的に復帰していったので、例外的に私がオフィスに赤ん坊を連れてきてお腹に抱えながら仕事をしたこともありました。仕事場に子どもを連れてくることは、安全面など考慮すべき問題はありますので、推奨はできませんが、しかたなくそうしたこともあります。
理研の和光研究所は構内に託児所があるから、母親が電話で授乳に呼んでもらう「おっぱいコール」があるらしいけど、横浜研究所にももうすぐ託児所ができるので、そういうことが制度的にできるかもしれませんね。

ご自身も育児に協力的なのですね。

子育ては楽しいです。遺伝学を専攻したので、目の前にいる子どもを生物として見ていて楽しいということもありますが、人生の幅が広がるし、育児を通して人の輪も広がったと感じます。自分の親も幸せにしてあげられるしね。
仕事のペースはすこし落ちるかもしれないけど、心理的な浮き沈みが減る、やる気や責任感が出るというポジティブな効果もあります。子どもがいないほうがよかったという後悔はまったくしていません。

研究との両立のために、どのような工夫をされていますか。

自分も妻も研究者としてのアウトプットを減らしたくないし、研究も家庭も、総合的な生産性を上げたいと思っています。そのためには、無駄な動きはできません。電車通勤すると疲れてしまうので、夫婦で時間を合わせて車で通勤し、幼稚園の送迎にも一緒に行きます。夫婦どちらか一人に負担が偏って疲れてしまうと、子どもに接するのが嫌になってしまいます。そうすると、子どもも夜すんなり寝ついてくれなくて、悪循環です。
洗濯も炊事も、子どものお弁当作りも、全部半分ずつ担当していますよ。子どもが甘えたいのは母親だから、自分の手が空いているときは家事をします。家族そろって夕食をとって、私が子どもをお風呂に入れて、絵本を読みながら一緒に寝てしまいます。妻は夜仕事をして、私は早朝に起きて洗濯や仕事をします。それから皆が起きてきて、子どもを着替えさせて、食べさせて・・・。毎日が戦いだけど、楽しんでいますよ。

何事も合理的にすることを徹底されているのですね。

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日本人は、働く時間の長さを評価する傾向がありますね。私は、だらだら働くのはやめろと言っています。研究室ではボスである私が一番先に帰ります。その後みんながどう過ごしているかは知りません。もちろん夜遅くまでがんばっている人もいると思います。それを咎めはしないけど、奨励もしません。とにかく私が評価するのは業績だけだということです。
長時間かかる実験もありますが、人間が一日の間で本当に集中できる時間はせいぜい8時間程度だと思います。私のグループでは、ミーティングは必ず夕方までに終えます。メンバーそれぞれの持ち時間を尊重したいからです。長時間かかりそうなことは早い時刻に始めればよいのです。
私も学生時代は夜な夜な研究しているタイプでしたが、ある先生に「良い成果が出るんだったら、1か月間ビーチにいて実験を考えているほうが、だらだら実験を続けて結果が出ないよりましだ」と言われました。また、「Don't confuse hard working and hard thinking.(みっちり働くこととみっちり考えることとを混同するな)」をモットーにしています。手を動かしていれば、仕事している気分になってしまうけど、よく考えてから始めないと結果は出ません。

よく考えるということは、独創性に通じるのでしょうか。

独創性というのは、注目されていないところに面白さを見出す能力ともいえるでしょう。勉強ばかりしていると身につかない能力で、これも学者には大切です。
ただ、最近は研究費の獲得が難しくなっているので、ホットな話題を追いかけないと研究費に困るという事情もあります。競争の激しい分野では、他のグループの後追いになってしまうと時間の無駄なので、情報収集も大切です。まだ公表されていない、進行中の研究について知るためには、信頼しあう研究仲間が世界中にいること、つまりネットワーキングが重要です。海外の小規模なワークショップに参加して、一緒にお酒を飲んで会話をして、別れ際にちらっと出る情報をつかむような能力が必要です。若いうちに海外での研究生活を経験するのは、語学力アップにもネットワーク構築にも有効ですね。

研究者は引越しが多いので、夫婦ともに研究者だと、一緒に住み続けるのが難しそうです。

photo3何を優先するかは人それぞれですが、自分のキャリアと、結婚や、子どもを持つかどうかといったことは、切り離さずにセットで考えるべきことだと思います。研究者という職業は時間の融通がきくので、育児との両立という面では、研究者カップルはむしろ有利でしょう。
「同等の能力であれば女性を優先的に採用する」という女性優遇措置が最近国内でも本格化してきましたが、アメリカでは、ちょうど私が大学院に進学したころがその時期でした。その後アメリカでは、優秀な女性研究者がたくさん出て、今では不公平感はほとんどなくなりました。アメリカの大学は所属研究者が外部から研究費を獲得してこないと運営が苦しいので、研究費を獲得できる優秀な研究者を誘致するためのプログラムがいろいろあります。その中には配偶者も同時に雇用するというものもあって、夫婦一緒に引越すことができます。日本の状況も似た方向に進んでいますから、いずれそういうプログラムも出てくるかもしれませんね。

今後の抱負をお聞かせください。

家庭生活を大切にしながら研究でも成功できるということを示して、ロールモデルになれればうれしいですね。同世代で見ると、自分が特によく家事や育児をしているとは感じていないけど、上の世代には多くないですから。今の30代ぐらいの人たちは、みんな研究と家庭生活を両立させていくだろうと思っていますよ。

 

2009年3月