[2013年4月改組]
2013年4月をもって新たな組織に発展し、研究を展開しています。 > 環境資源科学研究センター
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女性研究者の素顔

いつもトップスピードで走り続けなくてもいいと思うんです

生体内に存在する代謝物の総称“メタボローム”。ゲノムやプロテオームに次ぐものとして、生命現象の理解に不可欠であると注目されている。平井優美ユニットリーダーは、2人のお子さんの子育てをしながらも、植物代謝物の網羅的解析研究の第一線で活躍している気鋭の研究者。平井ユニットリーダーに研究の魅力や家庭と研究の両立のコツなど、飾らない生の声を聞いた。

プロフィール

平井優美(ひらい まさみ) 理研植物科学研究センターメタボローム基盤研究グループ 代謝システム解析ユニットユニットリーダー

1989年3月東京大学農学部農芸化学科卒業。1994年3月同大学大学院農学系研究科にて「硫黄栄養応答性遺伝子の発現制御機構」をテーマに博士号(農学)を取得。1994年4月〜1997年3月、日本学術振興会特別研究員として同研究に従事。1997年7月〜2001年3月、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業研究員(千葉大学リサーチアソシエイト)としてアルカロイド生合成に関する研究、2001年4月〜2005年3月、科学技術振興機構CREST研究員として千葉大学大学院薬学研究院にて栄養ストレス下の植物のトランスクリプトミクスおよびメタボロミクスを行う。2005年4月より現職。

研究者の道に進まれた経緯を教えて下さい。

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幼少時代から「絵本」よりも「図鑑」の方が好きだったんです。宇宙や自然現象のテレビシリーズなどを見て、科学に自然に興味をもつようになりました。研究者を意識しはじめたのは中学生の頃。研究をしながら教壇に立つ先生方に出会ったことで、“研究者”を身近に感じるようになりました。次第に、細胞・遺伝子というミクロな世界に興味が移り、バイオ研究の最先端を学ぼうと農学部へ進学しました。植物に強いこだわりはありませんでしたが、ミクロな世界の分子のふるまい、そこにとても興味を持っていたんです。

そのご興味が今の研究につながっているのですね。

そうですね。現在は、植物代謝物の網羅的解析を行っています。生命現象の根幹である代謝は、環境にあわせて、実に見事に変化します。まさに分子のふるまいですね。ですので、代謝を理解するためには、植物全体をシステムとして捉え、その代謝物(メタボローム)と転写産物(トランスクリプトーム)を一斉に解析する必要があります。マイクロアレイや質量分析など、分析技術の進歩した今では、膨大なデータを手にすることができるようになりました。しかし、そこからいかに生物学的意味を引き出すかという、解析手法の研究例はまだ乏しいのが現状です。試行錯誤なんですが、生物学的な意味を見つけだす、その方法論の開発を目指して研究を行っています。また、植物特有の二次代謝物の中には有用物質が多く含まれるので、植物の物質生産能力の向上にもつながるわけです。遺伝子・代謝ネットワークをバイオインフォマティクスの手法で明らかにするとともに、植物体で実証するというウェットな実験も合わせて行っています ※1

まさに最先端を走っていらっしゃるわけですが、研究とご家庭と両立するうえで大切なことはなんですか?

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子どもが2人いますが、中学1年生と小学5年生になり、今は2人でうまくこなしてもらっています。心苦しいながらも夫婦揃って出張に出かけますし。重要なのは夫との「分担」ですね。夫と交代で早帰りの日を決めて、夕食をつくるなど、家事・育児を分担して、やりくりしています。夫は、勉強の面倒もよく見てくれますし、PTAの役員も交代で担当したりと、分担は欠かせません。
ただ、子どもが小さいときは、保育園の送り迎えのために、時間の制約がどうしてもありました。出張も制限しましたし、学会も必要最低限のものしか参加しませんでした。日常的にも、あと10分あれば・・、というときに次の実験に手をだせず、結局、結果がでるのが一日先になってしまう、その繰り返し。今は男女共同参画のための様々な制度がつくられていますが、例えば、給料が少なくても、成果がでるまで、任期を延長できるような制度があれば、という声は、自分の経験からもその必要性を実感しています。

女性が活躍できる環境作りのために、男女がそれぞれに努力すべきことはなんでしょう?

無意識のレベルが変わっていくことだと思います。努力ではなくて、女性が活躍していることが当たり前になる。時間がかかることですが、まずは「かたち」から入ったとしても、それに社会の意識が合うようになっていく、ということでしょうか。

今後の目標をお聞かせ下さい

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研究に関して言えば、今後も、植物代謝の全体的な理解のための方法論をつくり、そこから新しいことを発見していきたいと思っています。PSCは、世界的にも植物のメタボローム・トランスクリプトーム研究にいち早く取り掛かりました。2004年に発表した論文が翌年には、植物バイオテクノロジー学分野で引用回数が第1位になっています※2。当時は不満足な点も残る内容だったのですが、それでも認められたことは、先駆的論文として世界からも注目されているのだと思いますし、そのパイオニアでありつづけたいと思っています。

後進へのメッセージをお願いします

男女関係なく、研究者を続けていくことは簡単ではありません。ですので、こうすればうまくいく、という法則はありませんが、今振り返ってみると、いつもトップスピードで走り続けなくてもよい、と思うんです。長女の産休から復帰したとき、ある先輩が「少しずつでも続けていれば研究のフロントに戻れるから」と言ってくださいました。もちろん成果が出ない時期もありましたが、周囲の理解に助けられながらも、ペースダウンして続けてきたことが、今につながっているのだと思います。

2007年12月

※1 2007年4月10日プレスリリース
「がん予防成分をアブラナ科野菜に作らせる新規遺伝子を発見」
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2007/070410/index.html

※2 2004年に『米国科学アカデミー紀要』で発表したシロイヌナズナの網羅的な遺伝子解析と細胞内化合物解析の論文(Hirai et al. PNAS 101: 10205-10210)では、アレイ技術による網羅的遺伝子発現解析(トランスクリプトミクス)に加えて、質量分析装置などによる細胞内の数千種類に及ぶ化合物の網羅的解析(メタボロミクス)を先駆的に行い、それらの統合解析により得られた成果を報告した。この論文は2005年度植物バイオテクノロジー分野で論文引用トップとなった(『Nature Biotechnology』5月1日号)。