[2013年4月改組]
2013年4月をもって新たな組織に発展し、研究を展開しています。 > 環境資源科学研究センター
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女性研究者の素顔

どんどん外に出て
価値観の異なる世界を見ることが大切 

学生時代に日本を飛び出し、約10年間、海外でキャリアを積んだ杉本ユニットリーダー。海外と日本の研究環境や女性の社会進出の意識の違いを聞いた。

プロフィール

杉本慶子(すぎもと けいこ)理研植物科学研究センター細胞機能研究ユニット ユニットリーダー

1993年国際基督教大学教養学部卒業。1995年大阪大学理学研究科にて修士号(生理学専攻)を取得し、同年オーストラリア国立大学大学院に留学。「植物の細胞伸長における表層微小管とセルロース微繊維の役割の遺伝学的研究」で2000年にPhD (Plant Science) を取得。同年より英国ジョンイネスセンターにてポストドクトラルフェロー、JSPSフェローとして植物細胞のサイズ制御に関する遺伝学的研究に従事。2005年より同研究所Department of Cell and Developmental Biologyのグループリーダーに就任。2007年7月より現職。

植物研究を志したのはいつ頃ですか?

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自然が身近にある環境で育ったので、草花で遊ぶことが多く、植物には自然に興味を持ちました。もともと“ものの論理的な見方”に興味があったのですが、高校で遺伝学を習ったとき、素朴な疑問がわいたんです。なぜ、子は親と同じかたちになるのか、と。DNAはあくまで情報であって、そこからどのように“かたち”が出来上がっていくのか、そのメカニズムがとても不思議でした。体がつくられるとき、細胞ひとつひとつがどちら向きに何回分裂するのか、そして分裂を終えた細胞が今度はそれぞれどちら向きにどれだけ生長するのか。ベーシックな課題ですが、全体像を明らかにしたくて、今もその続きのように植物のかたちの仕組みを紐解く研究をしています。

大学を卒業されてから長く留学されてますが、何がきっかけだったのでしょうか?

大学院に進学して間もない頃、横浜で開催された国際植物会議に参加する機会に恵まれました。そこで初めて、論文に出てくる著名な研究者の講義を受けて英語でディスカッションするという経験をしたんです。そのとき実感したんですね、英語でサイエンスを説明できるようにならないと駄目なんだ、と。会議でお会いしたオーストラリアの先生の研究室に留学が決まり、ドクターまでお世話になりました。その後も、まだまだ外を見てみたいとイギリスに移り、昨年までの約10年間を海外で過ごしました。

日本と海外の研究生活を両方されてどんなことを感じていらっしゃいますか?

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イギリスでは、ジョンイネスセンターで仕事をしました。ジョンイネスセンターは世界の植物研究のメッカのような場所です。目の前でどんどん面白い研究成果が出てくる。とてもエキサイティングな経験でした。実は、大学時代には語学にも興味があったので、研究の道でよいのか、もやもやした気持ちを抱えていたのですが、サイエンスで正解だったと感じたのはこのときが初めてかも知れません。ジョンイネスセンターは、研究者のサポート体制が非常に充実しています。コンピュータヘルプデスクや顕微鏡の専門技術員など、研究周辺のサポートスタッフがたくさんいます。コンピュータが故障すれば駆けつけてくれますし、買い換えれば必要なソフトをインストールして、すぐに使える状態になっている。研究に没頭できる環境でした。理研は日本ではとても恵まれていますが、サポートスタッフはそれぞれのラボで雇い、そのたびにスタッフ採用の面接や試薬調整の指導などもしなければなりません。また共通機器が少ないのでそれぞれのラボで業者との交渉などを処理しなくてはならない。研究の効率を考えれば、世界的にみるとまだまだ課題は多いと思います。

ご家庭と両立されるうえでもサポート体制は重要でしょうか。

両立のコツは、全部自分でやろうと思わないこと、です。優先順位をつけて自分がやるべき仕事は自分で、人にお願いできるところはお願いする。集中できる時間が限られた中で、いかに効率をあげるかが鍵。9時から17時までは研究に集中できる環境が理想的ですね。子どものお迎えにもいけますし。家庭でも、親がハッピーじゃないと、それが子どもにも影響すると思うんです。逆に家庭のことが、仕事のモチベーションにもつながります。そのためにも、適材適所のサポート体制は欠かせないですね。

後進へのメッセージをお願いします。

女性に限らず、全ての研究者へのメッセージとして、“外を見ること”の大切さを伝えたいです。数年前に「Woman for Science」(女性の科学分野進出を推進する国際会議)のパリ大会に日本の若手代表として参加したときのことですが、フォード社の女性副社長が「アメリカでは、この問題は女性だけでなく社会全体の問題です」と言うのです。夜中まで働く若い世代が減少している中で、会社が収益を上げるためにはどうしたらよいか、という問題なんですね。なるほどと思いました。つまり、若者の問題も子育ての問題も同じこと。人生と仕事をいかに両立させていくか、問題の本質はそこにあるのではないでしょうか。研究者にとっても、休日やアフターファイブに外にでて芸術やスポーツなど、他の文化に触れて自分を高めることはとても有意義だと思います。そこで得たインスピレーションが研究の結果にも出てくるかもしれません。一つの価値観ではないところで様々な経験をすることは無駄ではないはず。そういう意味で、特に若い人はどんどん外を見て欲しいですね。また同時に、若手の研究者に、研究が好きだから研究だけできればいい、という方が多いですが、キャリアパスとして責任ある立場を意識することも大切です。社会への情報発信やマネージメントなど、様々なスキルを身につけながら、日々の研究を行って欲しいと思います。もっとアクティブに自分の人生を自分で組み立てていければ素晴らしいと思います。

今後の目標はなんですか?

研究に関しては、学術的に面白い発見を出し続けていきたいです。今は遺伝子ごとの機能を見ていますが、総合的な理解を目指して、遺伝子から個体のかたちまでの成り立ちを明らかにしていきたいですね。同時にキャリアとしては、これまで海外で子どもをもっても良い成果を出す女性研究者をたくさん見てきました。有能な女性が子育てで仕事をやめるのは非常にもったいないことです。女性が活躍できる場がまだまだ少ない日本で、子どもがいても仕事を続けられるというロールモデルになれるよう頑張りたいと思っています。

2008年1月

※ 2007年12月4日プレスリリース
「DNAの量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明」
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2007/071204/index.html