[2013年4月改組]
2013年4月をもって新たな組織に発展し、研究を展開しています。 > 環境資源科学研究センター
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女性研究者の素顔

違う自分を想像してみる、今の仕事をもっと楽しむために 
プロフィール

上田(森)七重 生産機能研究グループ 生産制御研究チーム テクニカルスタッフ

2000年3月名古屋大学大学院生命農学研究科卒業。一年間のOL生活を経て、2001年4月より現職。テクニカルスタッフとして主に植物ホルモンであるサイトカイニンの生合成酵素に関する研究支援を行う。

研究室ではどのようなお仕事をされていますか? 

研究員の実験のサポートをするテクニカルスタッフです。ただ私の場合、テクニカルスタッフと研究員のちょうど中間のような仕事もさせて頂いています。チームリーダーの榊原先生が、思いついたアイディアを、どうかたちにするか、具体的な実験方法を考え、さらにその作業を行います。自分でアイディアを出すことはないのですが、研究者の構想をかたちにするべく手を動かす、ちょうど腹話術の人形みたいな仕事ですね。

ずっと理系の道をすすまれてきたのですか? 

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修士課程を終えてから、短い間ですがごく一般的なOLをしていました。メガネ屋さんの販売員です。大学4年生で研究室に配属になった当初は、ドクターまで行くぞ!という強い希望があったのですが、大学院修士課程に進んでまわりの学生を見渡したとき、優秀な方ばかりで、この先自分がこの世界でやっていけるかどうか・・という不安を感じました。優秀な学生は、研究のアイディアが湯水のようにどんどんわいてくるんですよね。それはもう、生まれ持ったセンスだな、と半ば諦めを感じたんです。ドクターを取れたとしても、それを活かして仕事をする自信がなかったんですね。その当時、様々なサービス業のアルバイトをしていました。人と接する仕事が楽しかったので、思い切って研究から離れてしまおう、と別の道に進みました。それが、メガネ屋さんの受付と販売の仕事でした。

なぜ理研にこられたのですか? 

就職先のメガネ店の眼科医が、公立大学の医学部の先生だったのですが、その学部学生が、病院の実験室で卒論研究をやっていました。私が大学院を修了しているということで、ある日、基本的な実験のやり方の指導を頼まれ、メガネ販売をしながら、週に1日ほど、実験を見てあげることになったんです。
実験器具の使い方や実験のコントロールの取り方などを教えながら、その特別な時間が楽しくて、その時は、このままここでずっとやっていこうと思っていました。
学生時代の理系の環境と比べて、女性が多く、とてもよい職場環境でしたし。そうやって過ごしているうちに、一年ほど経ったある日、大学時代の教授から連絡をいただきました。大学時代、同じ研究室でお世話になった榊原先生が名古屋大学から理研に移ることになった、テクニカルスタッフを探しているけど、どうかな?と、声を掛けていただいたんです。
迷いましたが、メガネ店で思いもよらず研究の楽しさを思い出してましたし、学部時代の実験に対する情熱がよみがえってきて、もう1度やってみてもいいかな、と転職を決心しました。当時は就職難の時代でしたから、転職には何の抵抗もありませんでした。

そのままずっと今のチームに?

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理研に来てから3年ほど経ったころ結婚し、それと同時に、主人が大阪に転勤になりました。私はてっきり、すぐには転職なんて出来ないだろうからしばらくは離れて暮らしながら理研の仕事を続けるんだ、と勝手に思っていたんです。しかし、「今すぐ理研の仕事やめて一緒に大阪来るよね?」とあっさり言われ…。正直、その時はかなり揉めたのですが、すぐに大阪での転職活動を始め、理研神戸研究所で技術員の職を得たのです。神戸の雰囲気はそれまでとはまるで違っていて、動物を扱う仕事、医学部の研究者の中での生活、初めての環境で過ごしました。しかし、一年ほど経ってようやく慣れてきた頃、また主人の転勤で東京に戻ることになり、再び転職活動へ。すでに榊原先生のラボのポストは埋まっていたのですが、戻って来るならなんとかするよ、とありがたいお返事をいただき、また植物センターで働くことになったんです。

OLから実験の生活に戻っていかがですか?

もちろん、正しい選択だったと思っています。しかし、テクニカルスタッフではなく、研究員を選んでいたら、限界を感じていたことでしょう。これは、研究者の皆さんに理解していただけるか不安ですが、テクニカルスタッフの仕事は、サービス業に通じるところがあるような気がします。研究員は、自分で結果を出して論文にすることに喜びを感じると思うのですが、私たちの場合、いい結果を出して、それを喜んでくれる研究者を見て、喜びを感じるんです(笑)。仕事自体は単純作業も多いですが、その結果で喜んでもらえることが仕事のモチベーションにつながるんですよね。特に、研究員が思っているよりも、早く上手く仕上がったりするとものすごく嬉しい。これは、私たちのチームの研究員とテクニカルスタッフとの人間関係が良いからかもしれません。

家事と仕事のやりくりはいかがですか?

結婚前は、仕事中心の生活でした。仕事の合間に家事、といった感じの生活です。結婚後は、夫から、結婚したら自分一人で生活しているわけではないのだから、自分がもっと仕事をやりたいと思ってもその一歩手前で抑えて帰る、そして家のこともちゃんとすること、と強く言われました。けじめをつけることが大切だよ、と。初めは、あと2時間あれば結果がでると思うとそこで帰るのは辛かったのですが、そこは我慢。家に帰って、夫の笑顔をみるようにしています。以前までは結構のんびりと実験をしていたのですが、けじめを覚えたおかげで、効率的な働き方が出来るようになり、仕事も家庭もより楽しく過ごせるようになりました。

今後の目標を教えてください。

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よりレベルの高い課題こなすためにさらに多くの技術を身につけたいですね。それだけではなく、私は、テクニカルスタッフはチームの雰囲気づくりも仕事だと思っています。うちのチームは同年代が多いからか仲はいいのですが、一般の会社のように新入社員が毎年入ってくるわけではないので、「先輩」という存在ができにくいんです。悩みがあったときに聞いてくれる人がいない。今のチームでは、気がついたら自分が年長者になっていて、周りから相談されるようになりました。今はそれなら私が「先輩」になればいい、と思っています。他のスタッフに対して技術面をきちんと伝えられて、精神面でも頼られるような存在になりたいですね。本音を言えば、私も頼れる人が欲しいんですけど。だからこそ、自分が後輩にとって、そいういう存在になれたらと思います。チーム全体にとっても、精神面の支えは大切ですからね。

後進へのメッセージをお願いします。

私は何度か職場が変わった経験から、あえて今の環境が最善だと思わないようにしています。仕事を選ぶにあたって、その仕事が好きかどうか、人間関係、お金、ひとそれぞれの動機があると思いますが、もし、自分がこの仕事をしていなかったら、と想像してみて下さい。実際に、転職活動という形で他の仕事を探してみると、同じ条件の仕事が意外とないことがわかったり、逆に他にもっと楽しそうな仕事の存在を知ったり。今の良いところ悪いところそれぞれが見えてきます。今の仕事を本当に大切に思えたら、覚悟がきまり、よりアグレッシブに働けるような気がするんです。仕事をもっと楽しむために、今の仕事に満足しないで、外を知ること。特に環境がよければよいほど、考えるべきことだと思います。私は何度か職場を変えていますが、そのたびに、違う自分が見えてきた気がします。平穏な生活に波風たてないことも大事ですが、試しに転職活動をしてみる。自己PRを書く作業も、自分を見直すきっかけになりますよ。今の仕事をより楽しむために。

2008年8月