[2013年4月改組]
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女性研究者の素顔

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プロフィール

申 怜(シン リョン) 理研植物科学研究センター 機能調節研究ユニットユニットリーダー

1996年2月韓国大学農学生物学部卒業。2002年2月同大学バイオテクノロジー研究科にて ”Molecular analysis of hot pepper genes associated with biotic stress response (生物学的ストレス応答に関連するトウガラシ遺伝子の分子解析)” で博士号取得。2002年4月よりドナルドダンフォース植物科学研究センターにて博士研究員、2006年1月より同センターにてアシスタント・ドメイン研究員。2008年7月より現職。

研究者を志すようになった経緯を教えてください。

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小さい頃は、いつも「なんで?どうして?」と訊いてばかりいました。質問しすぎて授業妨害になると、先生から苦情が来るほど(笑)。生物学に興味を持ったのは、中学生のころ、ある記事に出会ったことがきっかけです。遺伝子工学*によって作られた、ジャガイモとトマトの雑種、「ポマト」についての記事でした。その記事を読んで非常に感動し、「これが、私の進む道なのかもしれない。科学者になりたい!」と思いました。この出会いがなかったら、科学者にはなっていなかったかもしれません。

博士号取得後は指導教授の勧めもあり、海外に出ました。基礎研究を推進しており、優秀な研究者も多いアメリカで、自分の力を試してみようと思ったのです。

アメリカでの研究生活について教えてください。

新しいことに挑戦する日々でした。ドナルドダンフォース植物科学研究センターで働くことになり、分野自体も大学院時代専攻した植物病理学から、植物栄養学へと思い切って転向しました。うまく行かなかったら、また病理学に戻ればいい、なんて思っていました。まさかこの新しい分野が、いずれ私の専門になるとは、その時は思ってもいませんでした。ダンフォース研究センターでの所属研究室のPI(研究室の長のこと)は私に賭けてくれて、私にはその分野の経験がなかったのにもかかわらず、柔軟に取り組みやっていけるだろうと見込んでくれました。そして、新しい技術を学び使う機会を、たくさん与えてくれました。多くの技術を習得していく経験から学んだことの一つは、たとえ手法自体は今後使うかどうかわからないものだったとしても、取り組む中から新しいアイデアが生まれたり、何かしら得るものがあり、決して無駄にはならないということです。6年間ものあいだこの同じ研究室で働きましたが、様々な新しい挑戦に満ちたおもしろい日々でした。

アメリカ流の研究スタイルは、一般的に、集中して実験し、勤務時間内に終わらせるというものです。アジアの文化では、研究室に長くいればいるだけ、よく働いていると考える傾向がありますよね。私も、母国の韓国で院生だったときは、夜中まで働くことが普通でしたが、アメリカではアメリカ流にしてみました。集中して短時間で終わらせて19時ごろには帰る生活に変え、研究の他に何か楽しいこともしてみました。例えば、コミュニティカレッジでテニスやスケートなどのコースをとったりしました。とても楽しかったです。

アメリカで暮らしたことで、英語が上達したのはもちろんですが、実際に英語を用いて周りの人とコミュニケーションをとり、協力して働いていく能力を身につけられたことは大きいと思います。外国のまったく新しい環境で生き抜いていくためには、研究室内外問わず周りの人との助け合いが不可欠でした。外国の文化に適応し生活できたということは、私の人生経験を強め、どこでもやっていけるという自信を与えてくれました。

アメリカでポスドクとして働いた後、日本に移り理研でPIをされていますが、理研での研究生活はいかがですか?これまでいた場所との比較を交えて教えてください。

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理研には英語を使って研究する環境が整っているので、日本語があまり使えなくても特に不自由しません。難しいのは、日本政府など、理研の枠外からの研究助成金を得ようとする場合ですね。やはり日本語で、そして日本のスタイルで書けた方が有利なので、言葉と文化の壁があります。そのかわり、理研の中の助成金を得られるようサポートしてもらっています。

私にとって、理研で働く上での一番の魅力は、研究者のレベルの高さです。PIの方々は、みなそれぞれ強みを持っているので、互いの強みを持ち寄り共同研究することで、より良い研究を行うことができます。もちろん日本の外にいても、論文を通して他の研究室の研究を知り、コンタクトをとることはできます。しかし、同じ研究所で働きながら話をして、個人的に知り合うことが、共同研究にはやはり大切です。ここのPIの方々は、すばらしい研究をされているだけでなく、とても親切で、私のこともよく助けてくれます。このような環境では、意気投合して共同研究へと発展しやすいのです。他では、なかなかこううまくは行きません。

アメリカで私のいたダンフォース研究センターは、植物科学に特化した規模の大きな研究所でした。温室や人工気象機などの設備は圧巻で、植物を育てるスペースに困ることは全くありません。このような設備は、各研究室ではなく研究所全体のものであり、消耗品も提供してくれたので、個々の研究室で用意するお金も手間も必要ありませんでした。一方、理研では、育成設備は各研究室のものであり、自分たちであらゆることに対応しなければなりません。ダンフォース研究センターには、研究所全体で雇っている、植物の世話をするスタッフもいました。このスタッフの方々は、園芸学や植物科学の専門家ですので、病気や虫の害などの心配は無用でした。彼らがどんなことでも対応してくれたからです。これには本当に助けられました。いまでも時々、このサポートが恋しくなります。

現在はどのような研究をされていますか?

農業では多くの肥料を使いますが、お金がかかりますし、実は使った肥料のほとんどは植物に吸収されずに土に残り、環境汚染の原因となってしまいます。そこで、もっと効率よく栄養を吸収し、よく育つ植物を開発するために、植物の栄養吸収と生長のメカニズムについて研究しています。少ない肥料でもよく育ち、より豊かな実りをもたらす植物ができれば、多くの面で役に立てるはずです。食糧の増産や、肥料にかかるコストの削減だけでなく、肥料をつくるために使われる資源を守り、残留肥料による土や水の汚染を抑えることにより、環境にやさしい農業に変わります。このような貢献を目指して、植物の栄養感知や生長の根底にある仕組みを明らかにしていきたいと考えています。

最後に、後進へのメッセージをお願いします。

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研究では、多くの失敗に耐え、あきらめずに努力しつづけることが求められます。その一方で、自分の考えに固執せず、周りの意見を聞いて判断することが勝敗を決めることもあります。難しいことですが、自分の考えや仮説を変えること、時にはその実験やプロジェクトをやめる判断に対してさえも、オープンであるべきです。楽な仕事ではありませんが、決して退屈しないおもしろい仕事です。これは保証します。一つ疑問を解決すると、また新たな疑問が出てきます。刺激的でおもしろい人生になることは、まちがいないでしょう。

また、もし将来のことがはっきりしなくても、あまり不安に思わなくていいということをお伝えしたいです。私の場合、中学生のときに読んだポマトの記事が、科学者になろうと思ったきっかけですが、そのころは「分子生物学」や「植物バイオテクノロジー」という言葉さえ知りませんでした。今、まさにその分野にいることを思うと、不思議な気持ちがします。植物科学に進んだのも、あこがれの教授が、植物病理学を専門としていたからです。アメリカで新しい分野に挑戦しようと思い、たまたま出会った分野が、今では専門分野になりました。日本に来ることも、まったく予想していませんでした。今も、将来どこで何をするのかまだわかりませんが、現在いる場所で精一杯がんばってみて、その結果何が起きるのかみてみようという気持ちでいます。人生を変える大きな出来事というのは、たいてい私たちの予想を超えていて、そもそも計画などなかなかできないのですから。

最後に、これは植物科学を志す方へのアドバイスですが、自分の育てている植物をかわいがることも大切だと私は思っています。実は、私はいつも自分の植物に、挨拶し声をかけます。出張などで離れてしまった後では、会えなかったことを謝るんですよ。毎日様子を見に行き、世話をし、声をかけていると、植物もハッピーになるように見えます。コミュニケーションは一つの秘訣です。ぜひ試してみてくださいね。

2012年2月

※ ポマトは、細胞融合によって作出され、狭義では遺伝子工学には含まれません。しかし、細胞融合とは、異なる種の細胞を融合させ、結果的に新しい遺伝子の組み合わせを持った新種を作り出す技術です。このことから、ここでは遺伝子工学の一つとしています。